【古文書】『茶窻閒話』Vol.2

 
今回、資料として使用する『茶窻閒話』は、尾張徳川家の家臣 近松茂矩(しげのり 1696~1778)が編集した『茶湯古事談』を、 没後、享和四年(1804)にその中から面白い雑談百三十話ほどを選択、編集し出版されたものです。
 
 

《 読 み 》

○千利休いまだ与四郎といひし時.はじめて茶を出さんと

て.其頃左海にて古老宗匠と称せられし.北向道陳を招請

し.そののち道陳が心安きものをたのみて.指南を受けしに.

与四郎が茶道甚だよし.やがて天下に鳴るべし.但し此頃の

茶湯にて直さばあの大茶入より.茶をたふたふとすくひ入れ

て点てし心味おもしろからず.茶を少し入れて.かすり点

にたてる心入ならば.一際よろしからんとのみいひしと.是を

聞(き)てより.暁(サトリ)得て上達せしとなん


 
 《大意》

まだ利休が与四郎と名乗っていた若い頃、堺で古老宗匠といわれていた北向道陳をお招きし、
その後道陳の親しい茶人を紹介され茶湯の指導を受けました。
その時に、道陳は「与四郎(利休)の茶道はとても魅力的だし、やがて天下に知られる茶人と
なるだろう。しかし、今拝見した茶会で直すところを言えば、茶をタブタブと入れて点てる趣向は
面白くない。少し入れて点てる“かすり点て”にすれば一層よくなるだろう」と言われ、
それを聞いて心得、上達したということです。
 
《 解 説 》
① “いまだ” 変体仮名の元の字は、“以末多”です。ここでは“多”の草書に濁点がついていますが、古文書では濁点がつかないことも多々あります。

② “は(じめて)”の“は”の元の漢字は、“者”です。これも“者”の草書体でかなり省略された形ですが、仮名文字としてはよく使われますのでしっかりと覚えておいてください。

③ “と”は“登”の変体仮名です。

④ “其頃” “頃”の旁部分の“頁”はこういったくずし方をよくします。

⑤ “左海” 現在の堺市です。

⑥ “称せられし” “稱”は旧字です。
⑦ 北向道陳 1504~62。堺の茶人で、利休の茶の湯入門の師。

⑧ “そののち” の二つ目の“の”は踊り字(重ね字)です。

⑨ “が” これもよく使う“可”に濁点のついた文字です。

⑩ “心安きもの” 親しい人

⑪ “たのみて” 変体仮名のもとの漢字は“堂乃三天”です。

⑫ “甚だ” “だ”は①と同じで“多”に濁点のついたものです。

⑬ “やがて”

⑭ “たふたふと” これも最初の“たふ”の後にある“く”の字のようなものは踊り字で、“たふたふと”となります。

⑮ “すくひ入れて” 元の漢字は“春久比入連天”となります。

⑯ “心味” 趣向

⑰ “少し” 

⑱ “かすり” 元の漢字は“加春利”です。

⑲ “たてる” 元の漢字は“堂天流”です。この“る”の字もよく出てきます。

⑳ “心” 平仮名の“ん”の字に似ていますが、“心”です。



参考文献:『茶窓閒話』筒井紘一著 淡交社刊 

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