【古文書】『茶窻閒話』 Vol.1

 
今回、資料として使用する『茶窻閒話』は、尾張徳川家の家臣 近松茂矩(しげのり 1696~1778)が編集した『茶湯古事談』を、 没後、享和四年(1804)にその中から面白い雑談百三十話ほどを選択、編集し出版されたものです。
 


むかしは茶会の席とて別に定めてはなく.其席々々に見

合せて爐(炉)を切て點(点)てし.珠光の座敷などは六畳敷なりし

とぞ.但し爐(炉)の切取は.何畳敷にても三所(見所)あり.其傳に.あげ

て切と.さげて切と.道具畳のむかふ(むこう)の地敷居へ押しつけて切

との三っなり.しかるに武野紹鴎が四畳半の座敷を作り.はじ

めて爐(炉)を下中に切しより已来(このかた).四畳半構といふ(いう)事ありて.

其後千利休三畳大目構の座敷を造り.初て爐(炉)を中に上

て切しより.大目構の爐(炉)といひならはし.其頃より昔からいひ

傅(伝)へしあげて切.さげて切といふ詞は捨(すた)りはてて.今の世

ならは(ば).むかしかかる事ありしといふ事もしらぬ茶人多し

となん.



 
 《 解 説 》
① “むかし”
・変体仮名の元の漢字は「む」は「武」、「か」は「可」、「し」は「之」です。
・特に「か」は古文書ではこの文字がよく使われています。上に点がつき「う」の文字のように見えるものもありますので前後の文章からも推察してください。

② “其席々々に”
・「々々」の部分は踊り字と言い、平仮名の「く」の字を延ばしたように書きます。縦書きの文章のみに用いられます。現代文の中でもよく用いられています。2字以上の仮名、もしくは漢字と仮名を繰り返す場合に用いられます。
・「に」の元の漢字は「爾」の異体字「尓」です。この文字もよく使われます。

③ “座敷”

④ “などは”
・「は」の元の漢字は「盤」です。この字も「は」としてはたびたび使われてます。

⑤ “六畳敷”

⑥ “三所あり”
・「三所」は「三ヶ所」です。
この頃の炉の切り場所は、何畳敷であっても「上げ切」「下げ切」と、道具具畳の向こうの地敷居に押しつけて切る「押し付け切」の三つでした。

⑦ “押しつけて”
・元の字は「於之徒介天」です。
 道具畳の向こう端に炉を切ることで、「隅炉」「向切」が考えられます。

⑧ “武野紹鷗”
・1502~55 堺の豪商。連歌師を志して京都に遊学している間に茶の湯を学び、大黒庵を構えた。のちに堺に戻って家を継ぎ、茶匠を兼ねる。名物道具を数十種所持して堺随一、また茶の湯の名人と称された。

⑨ “を”
・元の字は「遠」です。

⑩ “其後”

⑪ “大目構” 「台目構」

⑫ “世”

⑬ “かゝる”
・元の漢字は「加ゝ累」です。ここにも平仮名を二字重ねる時に使用する“踊り字”の「ゝ」が使われています。


参考文献:『茶窓閒話』筒井紘一著 淡交社刊 

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